控訴審・第1回口頭弁論、期日報告(1)要旨陳述
控訴理由書と控訴準備書面(1)の要旨陳述と、控訴人(原告)団代表の野川さんの意見陳述(代読)を行いました。
下記は要旨陳述の内容です。
2021年6月29日
控訴人ら訴訟代理人
弁護士 椎名 基晴
本日、控訴人らから、控訴理由書と控訴準備書面(1)を提出しました。
控訴理由書は、地方裁判所の判決(以下「地裁判決」といいます。)の誤りを指摘し、控訴人らの請求が認められなくてはならないことを示す書面です。準備書面は、控訴人らの主張を補強するとともに、いくつかの新しい主張を行う書面です。
控訴理由書も準備書面も分量が非常に多いので、骨子だけであってもその全てをこの場で説明する時間はありません。そこで、控訴人らの主張の中核部分である控訴理由書に絞り、これからその内容の骨子を説明いたします。
地裁判決は、控訴人らのうち2名については、確認の利益がないとして、主張の内容を審理することなく訴えを却下しました。つまり、門前払いにしました。他の6名については、その主張の内容を審理した結果、国籍法11条1項が合憲であるとして請求を棄却しました。
しかし、この地裁判決は、憲法の解釈を誤り、国籍法の解釈も誤り、国籍法11条1項の重大な弊害について検討せず、そして行政事件訴訟法の解釈も誤っています。それぞれご説明します。
1 憲法の解釈の誤り
まず、地裁判決は憲法の解釈をどのように誤っているのかについてお話しします。要点を2つ述べます。
地裁判決の第1の誤りは、日本国籍を剥奪されることによって生じる控訴人らの不利益について、まったく検討しなかったことです。
国籍法11条1項は、複数国籍の防止を立法目的とする規定であり、国民からその意思に反して日本国籍を剥奪する規定です。
その国籍法11条1項が違憲か合憲かを判断するためには、複数国籍を防止しなかったときに生じる弊害と、意思に反して日本国籍を剥奪されてしまうという国民の不利益とを比較して、どちらを優先させるべきか検討することが必要不可欠です。
ところが地裁判決は、国民である控訴人らが意思に反して日本国籍を剥奪されることの不利益について、まったく検討しませんでした。
これでは、適切な判決など書けるわけがありません。
これが、地裁判決の第1の誤りです。
地裁判決の第2の誤りは、「国籍離脱の自由」を定める憲法22条2項の解釈について、日本国民に、日本国籍を離脱しない自由、日本国籍にとどまる自由はない、としたことです。
個人の幸福追求のために日本国籍を離脱するのは自由です。それなのに、個人の幸福追求のために日本国籍にとどまること、日本国籍を離脱しないことは権利として保障されない、とするのはおかしな話です。日本国籍にとどまる自由が否定されれば、国民は日本国籍を離脱するかしないか、離脱するならいつ離脱するのかを決めることができなくなり、国籍離脱の自由も否定されてしまいます。
地裁判決は、国民には日本国籍を離脱する自由があるとしつつ離脱しない自由がないとしていますので、論理的に矛盾しています。
これが、地裁判決の第2の誤りです。
2 国籍法の解釈の誤り
次に、地裁判決は、国籍法について、国籍選択の場合との差別取扱いを理解せず、解釈を誤っています。その要点を述べます。
国籍法は14条以下にいわゆる国籍選択制度を定めています。
国籍選択制度は、生まれながらにして複数国籍を持っている場合や、外国籍の当然取得が生じた場合や、そして外国人が日本国籍を取得した場合において、一旦複数国籍になってから、複数国籍の解消について本人の選択に委ねる、本人に選択の機会がある、という制度です。
ところが、本件のように外国籍を自分の意思で取得した場合だけは、複数国籍を解消するかどうかの選択の機会がありません。
この点について地裁判決は、自分の意思で外国籍を取る場合は、外国籍を取ろうとした時点で事前の選択の機会があるから、後で国籍法14条以下のような国籍選択の機会を与えなくてもよい、と考えているようです。
しかし、それは誤りです。
そもそも現実として、控訴人らのうち5名は、外国に帰化したら日本国籍がなくなることを知りませんでした。この5名に選択の機会があったとはいえません。自分の意思で外国籍を取得する人には事前に選択の機会がある、などという制度的な保障はないのです。
また、控訴準備書面(1)でも述べておりますが、国籍法14条以下が定める国籍選択の場合、すなわち、生まれながらにして複数国籍を持っている場合などの国民は、外国籍をもつことを実際に経験しており、良くも悪くもその外国籍をもつことの意味や内容を深く実感して把握することが可能な状態にあります。その上で日本国籍と外国籍を慎重に選択することができます。これに対し、自分の意思で外国籍を取得する国民は、外国籍についてそのような実感による把握ができないまま、日本国籍を剥奪されます。この点でも、自分の意思で外国籍を取得する人には、事前に国籍を選択する機会がある、などという制度的な保障はありません。
このように、国籍法11条1項は、自分の意思で外国籍を取得した人たちだけを国籍法14条以下が定める国籍選択の場合と比べて差別的に扱っています。そして、地裁判決は、控訴人らに選択の機会が無かったという事実を見ないことにして、国籍法11条1項の差別的取扱いを容認する解釈をしています。
地裁判決の解釈は、選択の機会について理解を誤り、憲法14条1項の平等原則違反を見逃しているだけでなく、そもそも国籍法の解釈を誤っています。
3 複数国籍の弊害よりも重大な国籍法11条1項の弊害の不検討
地裁判決は、実現するかどうかもわからない複数国籍の弊害の「おそれ」を理由に、日本国籍を剥奪してもかまわないと、結論づけました。
しかし、国籍法11条1項は、複数国籍の弊害よりもはるかに具体的で深刻な弊害を、現実に発生させています。
たとえば、控訴人たちは日本国籍を剥奪された結果、祖先とのつながりを失い、ご先祖様に顔向けできない、との自責の思いに苛まれています。両親が思いを込めた自分の漢字の名前を失い、アルファベットの名前でしか公に自分を表せません。
国籍法11条1項がある限り、大勢の人が日本国籍を奪われ、苦しみ続けます。そして、本人が知らないうちに日本国籍を奪われてしまうという重大な事態は、これからも起こり続けるでしょう。
知らないうちに日本国籍が失われてしまう。それが戸籍に反映されない。何年も経ち、あるいは世代が替わってから、「実はあの時、日本国籍がなくなっていた」として、突然、さかのぼって戸籍から複数の人が排除されてしまう。戸籍制度の根本をも揺るがす由々しき事態が、既に現実に起きています。
これらの弊害の方が、複数国籍の弊害のおそれよりもはるかに現実的で深刻なのに、地裁判決は検討をしていません。このような弊害は、国籍法11条1項をなくし、外国籍を自分の意思で取得した人も国籍選択制度の対象にすれば解決します。
4 行政事件訴訟法の解釈の誤り
最後に、行政事件訴訟法の解釈の誤りについて要点を述べます。
地裁判決は、控訴人7と控訴人8について、外国国籍の取得手続を開始していないことを理由に、日本国籍が失われる危険が生じていないとして、訴えを門前払いにしました。
この判断によって二人は、居住国で外国人として不安定な立場を強いられ、居住国に紛争が発生したときなどに、それぞれの家族がバラバラになる危険にさらされています。
地裁判決のこの論理は、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」の活用を図ることを目指した行政事件訴訟法改正の目的に反するものです。また、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」の活用を図ってきた裁判例の流れを逆行させるものでもあります。
地裁判決の論理で、控訴人7と控訴人8を門前払いすることは許されません。
5 結論
このように、地裁判決には数多くの誤りがあります。
また、控訴準備書面(1)で指摘したように、地裁判決の誤りを分析することを通して浮き彫りになってきた憲法上の問題点も、国籍法11条1項には多数あります。
控訴人らの請求は全て、速やかに認容されるべきです。
ご清聴ありがとうございました。
以上