第八回口頭弁論期日報告

 第8回口頭弁論期日では、原告2名の尋問が行われる予定でした。スイス国籍を取得して日本国籍がなくなったと扱われている原告1(野川さん)と、日本国籍を失いたくないためスイス国籍を取得できずにいる原告7(岩村さん)の尋問です。

 ところが、原告7には、コロナウイルスが蔓延する中、スイス国籍がないために日本に帰国できないという思いがけない事態が生じてしまいました。そのため、原告7の尋問は取りやめることとなり、原告1の尋問のみが行われました。

 原告7が帰国をできなくなった事情と理由、そしてその事実が象徴する国籍法11条1項の問題点を指摘したのが、今回提出した準備書面(17)です。その準備書面(17)の要旨を説明するため、法廷で読み上げられたのが、下記の文章です。

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2020年3月5日

原告ら訴訟代理人             

弁護士  椎名 基晴

 今回の期日で原告らは準備書面(17)を提出しますので、この準備書面における原告らの主張の要旨をご説明いたします。

1 原告7は本日、法廷に来ることができませんでした。 

 原告7は今回の期日で尋問を受けるために日本に帰国して出頭する予定でしたのに、出頭できなくなりました。

 原因は、コロナウイルスの蔓延です。

 原告7は、深く長く思い悩んだ結果、日本への帰国を取りやめました。

 原告7は、この法廷に来てみなさんの前で陳述をしたかった。それなのにできなかった。

 日本国民である原告7は、居住国の国籍を持っていないがために、国籍国である日本への帰国を断念せざるを得なかった。

 この事実自体が国籍法11条1項の問題を示しています。

2 原告7が今回の帰国を中止する決断に至るまでの心情は、今回新たに提出した陳述書(甲151号証)に示しています。

 原告7を帰国取りやめの決断を導いたのは、下記①及び②の事実を背景とする、下記③及び④の事実です。要旨を述べます。

① 医師からの忠告

 医師でありインフルエンザ等の専門家である日本在住で日本人の友人から、この時期の日本への帰国は避けるべきだと強く忠告されました。

② コロナウイルス蔓延の世界的な認識

 日本がコロナウイルス蔓延の新たな震源地になるとの認識が世界的に広まっています。

③ スイスの我が家に戻れなくなる可能性

 原告7は、スイス国籍がなくスイスにCパーミットで滞在しているに過ぎないため、日本に帰国しても、スイスに予定通りにもどれるとは限りません。スイスのわが家に帰ることができなくなるおそれがあります。

④ 家族が分断される可能性

 原告7の妻はコロナウイルスによる死者が多数出ている状況の中で、原告7だけが日本に帰国することを拒んでいます。原告7が仮に夫婦で日本に帰国した場合、スイスへ戻る際の入国許可等に関して差異が生じるおそれがあります。

 スイスにはBパーミットで居住する台湾国籍の妻と、Cパーミットで居住する日本国籍の原告7とでは、スイスから異なった取り扱いを受ける可能性があり、家族分断という深刻な事態が生じかねません。

3 以上の4つの理由のうち③スイスのわが家にもどれなくなる可能性、と④家族が分断される可能性はまさに、原告7が第2回口頭弁論期日の意見陳述において、スイス国籍取得が必要な理由として述べています。

4 国籍法11条1項は、日本国民が、居住国の国籍を持っていないがために、国籍国である日本への帰国を断念せざるを得ない場合を生じさせる。このことは、コロナウイルス蔓延の状況下で図らずも現実的に明らかになりました。

 日本国民の移動の自由を奪い、幸福追求を妨げる国籍法11条1項は、憲法13条及び22条2項に反し、違憲です。

 すぐにもスイス国籍を取得できる状況にある原告7は、すぐにもフランス国籍を取得できる状況にある原告8と共に、居住国の国籍を取得しても日本国籍を失わない地位にあることが、速やかに確認されるべきです。

 準備書面(17)の概要は以上のとおりです。

 ご清聴ありがとうございました。

以上

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⭐️岩村さん陳述書(スイス国籍が必要な理由、日本国籍を失いたくない理由等について)

⭐️岩村さん追加陳述書(帰国できなくなった事情等について)