今回( こんかい ) の訴訟( そしょう ) についてのQ&Aのページです。 今回( こんかい ) の訴訟( そしょう ) の争点( そうてん ) や国籍法( こくせきほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) の問題点( もんだいてん ) をわかりやすく伝( つた ) えたいと願( ねが ) い、支援( しえん ) ネットワークが作成( さくせい ) しています。 少( すこ ) しでもわかりやすくをモットーに、随時( ずいじ ) 、改訂( かいてい ) していく予定( よてい ) です。 (質問( しつもん ) をクリックすると回答( かいとう ) が表示( ひょうじ ) されます。)
第( だい ) 1「国籍( こくせき ) はく奪( だつ ) 条( じょう ) 項( こう ) 違憲( いけん ) 訴訟( そしょう ) 」の原告( げんこく ) はどんな人( ひと ) たち?
原告( げんこく ) たちは、
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の
両親( りょうしん ) から
生( う ) まれました。
両親( りょうしん ) とのつながりによって、
生( う ) まれたときに
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を
取得( しゅとく ) しました。
今( いま ) はスイスやリヒテンシュタイン
公国( こうこく ) 、フランスで
暮( く ) らしています。
弁護士( べんごしく ) ドットコムNEWS 2018年( ねん )
7月( がつ ) 5日( いつか )
ある
原告( げんこく ) は
日本( にほん ) の
国内( こくない ) で
生( う ) まれ、
育( そだ ) ちました。そして
成人( せいじん ) になった
後( あと ) に
海外( かいがい ) で
暮( く ) らしはじめました。
別( べつ ) の
原告( げんこく ) はもともと
海外( かいがい ) で
生( う ) まれ
育( そだ ) ち、ずっと
海外( かいがい ) で
暮( く ) らしています。
原告( げんこく ) たち8
名( めい ) のうち6
名( めい ) は、スイスやリヒテンシュタイン
公国( こうこく ) で、
仕事( しごと ) 上( じょう ) の
必要( ひつよう ) や
生活( せいかつ ) 上( じょう ) の
必要( ひつよう ) のためにその
国( くに ) の
国籍( こくせき ) を
取( と ) りました。
別( べつ ) の2
名( めい ) は、
日本( にほん ) の
国籍( こくせき ) だけを
持( も ) っています。
今( いま ) 暮( く ) らしている
外国( がいこく ) での
生活( せいかつ ) のために、その
国( くに ) の
国籍( こくせき ) をこれから
取( と ) りたいと
希望( きぼう ) しています。
2018年( ねん ) 10月( がつ ) 8日( ようか ) 、東京新聞( とうきょうしんぶん ) 「こちら特報部( とくほうぶ ) 」
原告( げんこく ) たち8名( めい ) のうち6名( めい ) はスイスやリヒテンシュタイン公国( こうこく ) の国籍( こくせき ) を取( と ) りました。そして日本( にほん ) 政府( せいふ ) からは、外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取( と ) ったという理由( りゆう ) で、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を失( うしな ) った人( ひと ) として扱( あつか ) われています。
原告( げんこく ) たち8名( めい ) のうち外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取( と ) っていない2名( めい ) は、今( いま ) は日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を持( も ) っている人( ひと ) として扱( あつか ) われています。ですが、この2名( めい ) が将来( しょうらい ) 外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取( と ) ったときには、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を失( うしな ) った人( ひと ) として扱( あつか ) われるおそれがあります。
その原因( げんいん ) が、国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) です。
第( だい ) 2 原告( げんこく ) たちは今回( こんかい ) の裁判( さいばん ) で何( なに ) を求( もと ) めているのですか?
国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) です。
この条文( じょうぶん ) には「日本( にほん ) 国民( こくみん ) は、自己( じこ ) の志望( しぼう ) によつて外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取得( しゅとく ) したときは、日本( にほん ) の国籍( こくせき ) を失( うしな ) う。」と書( か ) いてあります。
つまり、日本( にほん ) 国民( こくみん ) が自分( じぶん ) の志望( しぼう ) で外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取( と ) ったときには、取( と ) ったと同時( どうじ ) に自動的( じどうてき ) に日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を失( うしな ) う、と決( き ) められているのです。
国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) を違憲( いけん ) 無効( むこう ) とする判決( はんけつ ) が出( で ) たら、その条文( じょうぶん ) は無( な ) かったことになります。
そうすると、原告( げんこく ) の中( なか ) で過去( かこ ) に外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取( と ) った人( ひと ) たちは、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を奪( うば ) われなかったことになります。また、これから外国籍( がいこくせき ) を取ろうとしている原告( げんこく ) たちは、外国籍( がいこくせき ) を取( と ) っても日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を奪( うば ) われずに済( す ) みます。
つまり、「国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) は憲法( けんぽう ) に反( はん ) して無効( むこう ) 」とする判決( はんけつ ) が出( で ) たら、原告( げんこく ) たちは安定( あんてい ) して日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を保有( ほゆう ) している人( ひと ) (=日本人( にほんじん ) )として公式( こうしき ) に認( みと ) められるようになります。
原告( げんこく ) たちは、国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) は今( いま ) の国籍法( こくせきほう ) が施行( しこう ) された昭和( しょうわ ) 25年( ねん ) から憲法( けんぽう ) に違反( いはん ) して無効( むこう ) だった、と主張( しゅちょう ) しています。
この主張( しゅちょう ) が認( みと ) められれば、これまで国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) のせいで日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を失( うしな ) ったと扱( あつか ) われてきた大勢( おおぜい ) の人( ひと ) たちも、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を失( うしな ) っていなかった(=日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を持ち続( つづ ) けている)ことになります。そうなれば、このような原告( げんこく ) 以外( いがい ) の大勢( おおぜい ) の人( ひと ) たちにも、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の回復( かいふく ) ・確認( かくにん ) の道( みち ) が開( ひら ) かれることでしょう。
第( だい ) 3 国籍( こくせき ) はく奪( だつ ) 条( じょう ) 項( こう ) ってひょっとして?
明治( めいじ ) 時代( じだい ) の1899年( ねん ) に、複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の発生( はっせい ) 防止( ぼうし ) を目的( もくてき ) としてつくられました。
それが今( いま ) も、何( なん ) の見直( みなお ) しもされないまま、残( のこ ) っています。
第( だい ) 4 複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) って何( なに ) それ?
「
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) 」は、“
1人( ひとり ) のひとに
複数( ふくすう ) の
国籍( こくせき ) がある
状態( じょうたい ) ”を
指( さ ) す
言葉( ことば ) です。
multiple nationality
multiple citizenship
の
訳語( やくご ) です。
「重国籍( じゅうこくせき ) 」も同( おな ) じ状態( じょうたい ) を指( さ ) す言葉( ことば ) ですが、言葉( ことば ) のつくりや響( ひび ) きが「重婚( じゅうこん ) 」に似ているせいで、倫理的( りんりてき ) に悪( わる ) いことだとイメージされやすいように思( おも ) われます。
しかし、1人( ひとり ) のひとに複数( ふくすう ) の国籍( こくせき ) があるということは、「良( よ ) いも悪( わる ) いもない、単( たん ) なる状態( じょうたい ) 」です。
そこで、今回( こんかい ) の訴訟( そしょう ) では、「良( よ ) いも悪( わる ) いもない、単( たん ) なる状態( じょうたい ) なのだ」ということをアピールする目的( もくてき ) で、「複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) 」という言葉( ことば ) を使( つか ) ってています。
どの
国( くに ) も、
誰( だれ ) に
国籍( こくせき ) を
与( あた ) えるかは
自由( じゆう ) に
決( き ) めることができます。
このことを、
国籍( こくせき ) 法制( ほうせい ) に
関( かん ) する「
主権( しゅけん ) 尊重( そんちょう ) の
原則( げんそく ) 」と
言( い ) います。
そうすると、ある
国( くに ) がAさんに
国籍( こくせき ) を
与( あた ) え、
別( べつ ) の
国( くに ) もAさんに
国籍( こくせき ) を
与( あた ) えるということが
起( お ) きてしまいます。これが、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
発生( はっせい ) です。
そして「
主権( しゅけん ) 尊重( そんちょう ) の
原則( げんそく ) 」がある以上、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
完全( かんぜん ) に
防止( ぼうし ) することは
不可能( ふかのう ) です。
世界( せかい ) には、いろいろな国籍( こくせき ) 法制( ほうせい ) の国( くに ) があります。
たとえば、自分( じぶん ) の国( くに ) の国民( こくみん ) の子孫( しそん ) に国籍( こくせき ) を与( あた ) える国( くに ) があります(血統( けっとう ) 主義( しゅぎ ) といいます)。
自分( じぶん ) の国( くに ) で生( う ) まれた人( ひと ) に国籍( こくせき ) を与( あた ) える国( くに ) もあります(生地( せいち ) 主義( しゅぎ ) といいます)。
血統( けっとう ) 主義( しゅぎ ) と生地( せいち ) 主義( しゅぎ ) を組( く ) み合( あ ) わせている国( くに ) もあります。
細( こま ) かい条件( じょうけん ) をみると、それこそ千差万別( せんさばんべつ ) です。
「主権( しゅけん ) 尊重( そんちょう ) の原則( げんそく ) 」も、国際( こくさい ) 人権法( じんけんほう ) の発展( はってん ) に伴( ともな ) い、制約( せいやく ) を受( う ) けるようになっています。
具体的( ぐたいてき ) に言( い ) うと、差別( さべつ ) 禁止( きんし ) 原則( げんそく ) 、無国籍( むこくせき ) 防止( ぼうし ) 原則( げんそく ) 、恣意的( しいてき ) な国籍( こくせき ) はく奪( だつ ) 禁止( きんし ) 原則( げんそく ) (世界( せかい ) 人権( じんけん ) 宣言( せんげん ) 15条( じょう ) 2項( こう ) )、夫婦( ふうふ ) 国籍( こくせき ) 独立( どくりつ ) の原則( げんそく ) という4つの原則( げんそく ) により、各国( かっこく ) は立法( りっぽう ) 裁量( さいりょう ) の幅( はば ) を狭( せば ) められてきています。
過去( かこ ) には、
問題( もんだい ) が
起( お ) きるんじゃないのかと
心配( しんぱい ) された
時期( じき ) がありました。
たとえば1930
年( ねん ) に
作( つく ) られた「
国籍法( こくせきほう ) の
抵触( ていしょく ) に
関( かん ) するある
種( しゅ ) の
問題( もんだい ) に
関( かん ) する
条約( じょうやく ) 」は、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
発生( はっせい ) が
避( さ ) けられないことを
前提( ぜんてい ) にしてその
弊害( へいがい ) をどう
解決( かいけつ ) するかを
定( さだ ) めようとしたものでした。
しかしその
後( ご ) 、
心配( しんぱい ) されていた
弊害( へいがい ) は
杞憂( きゆう ) に
過( す ) ぎなかったり
国際( こくさい ) 慣習法( かんしゅうほう ) や
条約( じょうやく ) で
解決( かいけつ ) できたりすること、むしろ
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
認( みと ) める
方( ほう ) が
社会( しゃかい ) にとっても
個人( こじん ) にとってもメリットが
大( おお ) きいことが
認識( にんしき ) されてきました。
その
結果( けっか ) 、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
肯定( こうてい ) する
国( くに ) が
増( ふ ) え
続( つづ ) けています
外国( がいこく ) に
行( い ) った
自国民( じこくみん ) が
外国( がいこく ) の
国籍( こくせき ) を
取得( しゅとく ) しても
元( もと ) の
国籍( こくせき ) を
失( うしな ) わないですむ
法制度( ほうせいど ) を
持( も ) つ
国( くに ) (つまり
日本( にほん ) の
国籍法( こくせき ) 11
条( じょう ) 1
項( こう ) とは
異( こと ) なる
制度( せいど ) を
持( も ) つ
国( くに ) )は、2011
年( ねん ) には
国連加盟国( こくれんかめいこく ) の72%(
国連調査( こくれんちょうさ ) )、その
後( ご ) さらに
増( ふ ) えて、2018
年末( ねんすえ ) では
世界( せかい ) の75%になっています(マーストリヒト
大学調査( だいがくちょうさ ) )。
一目( ひとめ ) でわかるグラフはこちら→Global Dual Citizenship Database)
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を肯定( こうてい ) する国( くに ) が増加( ぞうか ) したのは、
「平等( びょうどう ) と人権( じんけん ) への配慮( はいりょ ) 、不可避( ふかひ ) だという諦観( ていかん ) 、そして二重( にじゅう ) シティズンシップの利益( りえき ) はその費用( ひよう ) をはるかに上回( うわまわ ) るという多数意見( たすういけん ) とが合( あ ) わさった帰結( きけつ ) 」(ヨプケ、クリスチャン、2013年( ねん ) 『軽( かる ) いシティズンシップ――市民( しみん ) 、外国人( がいこくじん ) 、リベラリズムの行方( ゆくえ ) 』岩波書店( いわなみしょてん ) 72頁( ページ ) )
であるなどと、説明( せつめい ) されています。
法務省( ほうむしょう ) の
推計( すいけい ) によると2018
年( ねん ) 時点( じてん ) で
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
日本( にほん ) 国民( こくみん ) は92
万( まん ) 5000
人( にん ) に
上( のぼ ) ります(
法務省( ほうむしょう ) 推計( すいけい ) (
毎日新聞記事( まいにちしんぶんきじ ) へのリンク))。
これほど
多( おお ) くの
人( ひと ) が
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) であっても、そのために
問題( もんだい ) が
生( しょう ) じたという
事例( じれい ) は
報告( ほうこく ) されていません。
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
防止( ぼうし ) すべき
根拠( こんきょ ) としてよく
挙( あ ) げられるのが、「
国籍( こくせき ) 唯一( ゆいいつ ) の
原則( げんそく ) 」です。
しかし、このような
原則( げんそく ) は
存在( そんざい ) していません。(「いわゆる「
国籍( こくせき ) 唯一( ゆいいつ ) の
原則( げんそく ) 」は
存在( そんざい ) するか」(
永田誠( ながたまこと ) 、1986
年( ねん ) ))
この
原則( げんそく ) が
掲( かか ) げられたとされるのが、「
国籍法( こくせきほう ) の
抵触( ていしょく ) に
関( かん ) するある
種( しゅ ) の
問題( もんだい ) に
関( かん ) する
条約( じょうやく ) 」(1930
年( ねん ) )です。
しかし、この
条約( じょうやく ) は、
法的( ほうてき ) 拘束力( こうそくりょく ) のないその
前文( ぜんぶん ) で「この
領域( りょういき ) において
人類( じんるい ) が
努力( どりょく ) を
傾( かたむ ) けるべき
理想( りそう ) は、あらゆる
無国籍( むこくせき ) の
事例( じれい ) 及( およ ) び
二重( にじゅう ) 国籍( こくせき ) の
事例( じれい ) をともに
消滅( しょうめつ ) させることにあると
認( みと ) め」と
述( の ) べるのみで、
実際( じっさい ) には
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) が
発生( はっせい ) することを
前提( ぜんてい ) に、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
弊害( へいがい ) を
除去( じょきょ ) しようとするものでした。
そして国籍法( こくせきほう ) に関( かん ) する最先端( さいせんたん ) の文献( ぶんけん ) でも、そのような原則( げんそく ) の存在( そんざい ) は触( ふ ) れられていません。(International standards on nationality law: texts. cases and materials, Gerard-Rene de Groot and Olivier Willem Vonk,2015)
第( だい ) 5 原告( げんこく ) たちは何( なに ) に困( こま ) ってるの?
外国( がいこく ) に
生活( せいかつ ) の
基盤( きばん ) や
活躍( かつやく ) の
場( ば ) を
築( きず ) いてきた
人( ひと ) や、
家族( かぞく ) 関係( かんけい ) が
国境( こっきょう ) を
越( こ ) えて
広( ひろ ) がっている
人( ひと ) たちにとっては、
国籍( こくせき ) が
一( ひと ) つだけだと
困( こま ) る
場合( ばあい ) がたくさんあります。
どちらも大切( たいせつ ) 、どちらも必要( ひつよう ) 。このことを、「複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) は二刀流( にとうりゅう ) 」と言( い ) います。
メジャーリーグの大谷選手( おおたにせんしゅ ) に、誰( だれ ) も、二刀流( にとうりゅう ) はやめて投手( とうしゅ ) か野手( やしゅ ) か一( ひと ) つを選( えら ) べ! などと野暮( やぼ ) なことは言( い ) わないでしょう。どちらか一方( いっぽう ) だけで十分( じゅうぶん ) 、などということはまったくないのです。
2019年( ねん ) 、原告( げんこく ) 弁護団( べんごだん ) では、国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) に関( かん ) するアンケート調査( ちょうさ ) を行( おこな ) い、497名( めい ) の方( から ) から回答( かいとう ) をいただきました。
外国( がいこく ) で暮( く ) らしている日本( にほん ) 国民( こくみん ) が直面( ちょくめん ) している問題( もんだい ) のいくつかを紹介( しょうかい ) します。
住( す ) んでいる
国( くに ) の
国籍( こくせき ) がないと、その
国( くに ) での
就労( しゅうろう ) の
機会( きかい ) や
社会保障( しゃかいほしょう ) (
年金( ねんきん ) 、
教育( きょういく ) 機関( きかん ) の
授業料( じゅぎょうりょう ) 免除( めんじょ ) や
奨学金( しょうがくきん ) )、
相続( そうぞく ) などの
場面( ばめん ) で
不利( ふり ) になることがあります。
税金( ぜいきん ) を
納( おさ ) めているけれども
参政権( さんせいけん ) はないので、
自分( じぶん ) の
暮( く ) らしに
直接( ちょくせつ ) 影響( えいきょう ) する
政策( せいさく ) 決定( けってい ) にもかかわれません。
在留( ざいりゅう ) 資格( しかく ) も不安定( ふあんてい ) です。永住権( えいじゅうけん ) や永住資格( えいじゅうしかく ) を取( と ) れたとしても、何年( なんねん ) かおきに更新( こうしん ) が必要( ひつよう ) だったり一定( いってい ) 期間( きかん ) を超( こ ) えて居住国( きょじゅうこく ) を離( はな ) れると喪失( そうしつ ) させられてしまったり、最悪( さいあく ) の場合( ばあい ) には強制( きょうせい ) 送還( そうかん ) の対象( たいしょう ) になったり、国際( こくさい ) 情勢( じょうせい ) 次第( しだい ) で再入国( さいにゅうこく ) が制限( せいげん ) されて生活( せいかつ ) 基盤( きばん ) が失( うしな ) われてしまうことさえあり得( え ) るなど、さまざまな制約( せいやく ) があります。(日本( にほん ) でもコロナ・パンデミックの際( さい ) 、永住外国人( えいじゅうがいこくじん ) が出国( しゅっこく ) すると再入国( さいにゅうこく ) が認( みと ) められなくなることが問題( もんだい ) になりました。)
国際結婚( こくさいけっこん ) 家族( かぞく ) の場合( ばあい ) 、家族( かぞく ) に共通( きょうつう ) する国籍( こくせき ) がないと、家族( かぞく ) が離( はな ) れ離( ばな ) れになるおそれもあります。そうならないように、日本( にほん ) 国民( こくみん ) が住( す ) んでいる国( くに ) の国籍( こくせき ) を取( と ) る必要( ひつよう ) があることがあります。
たとえば日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の女性( じょせい ) が外国籍( がいこくせき ) の男性( だんせい ) と結婚( けっこん ) して夫( おっと ) の国( くに ) に移住( いじゅう ) して、子( こ ) どもが生( う ) まれました。その外国( がいこく ) が、自国民( じこくみん ) と結婚( けっこん ) した外国人( がいこくじん ) に国籍( こくせき ) を与( あた ) えるという制度( せいど ) を持( も ) っていないとすると(昔( むかし ) はそういう制度( くせいど ) を持( も ) つ国( くに ) も少( すく ) なくありませんでした)、父( ちち ) と子( こ ) にはその外国籍( がいこくせき ) が、母( はは ) と子( こ ) には日本( にほん ) 国籍( こくせき ) が、それぞれ共通( きょうつう ) の国籍( こくせき ) ということになります。この場合( ばあい ) 、家族( かぞく ) で共通( きょうつう ) の国籍( こくせき ) を持( も ) とうとすると、母親( ははおや ) がその外国籍( がいこくせき ) を取得( しゅとく ) するのが最( もっと ) も現実的( げんじつてき ) な方法( ほうほう ) です(必要( ひつよう ) な居住期間( きょじゅうきかん ) を満( み ) たすためなど)。
同( おな ) じケースで離婚( りこん ) することになった場合( ばあい ) 、母親( ははおや ) がその外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取得( しゅとく ) していないと、在留( ざいりゅう ) 資格( しかく ) が一気( いっき ) に不安定( ふあんてい ) になって親権( しんけん ) や面会交流権( くめんかいこうりゅうけん ) を確保( かくほ ) するうえで不利( ふり ) な立場( たちば ) においこまれるなど、一層( いっそう ) 深刻( しんこく ) な事態( じたい ) に陥( おちい ) ってしまいます。
日本( にほん ) で暮( く ) らす親( おや ) の介護( かいご ) のために日本( にほん ) に帰国( きこく ) しなくてはならなくなったときも、問題( もんだい ) が生( しょう ) じます。居住国( きょじゅうこく ) の永住権( えいじゅうけん ) ・永住資格( えいじゅうしかく ) を失( うしな ) わないですむ期間( きかん ) だけ日本( にほん ) に帰国( きこく ) するつもりだったのに、介護( かいご ) のための突発的( とっぱつてき ) な事情( じじょう ) が生( しょう ) じてその期間内( きかんない ) に居住国( きょじゅうこく ) にもどれなかったら、永住権( えいじゅうけん ) ・永住資格( えいじゅうしかく ) は失( うしな ) われてしまいます。
また、親( おや ) を居住国( きょじゅうこく ) に呼( よ ) び寄( よ ) せて介護( かいご ) もふくめて一緒( いっしょ ) に暮( く ) らそうと考( かんが ) えたときや、配偶者( はいぐうしゃ ) を呼( よ ) び寄( よ ) せたいと考( かんが ) えたときも、居住国( きょじゅうこく ) の国籍( こくせき ) がないと簡単( かんたん ) にはできません。
国籍( こくせき ) を取得( しゅとく ) すれば解消( かいしょう ) できるこういった「ハンディ」を抱( かか ) え続( つづ ) ける日本( にほん ) 国籍( こくせき ) 者( しゃ ) は、不可思議( ふかしぎ ) な存在( そんざい ) だとみなされることが多々( たた ) あるようです。
外国( がいこく ) で
暮( く ) らしていても
自分( じぶん ) は
日本( にほん ) 国民( こくみん ) でありたいと
考( かんが ) えている
人( ひと ) 、
日本( にほん ) 国民( こくみん ) として
生( い ) き
続( つづ ) けたいと
考( かんが ) えている
人( ひと ) にとって、
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) はけっして
捨( す ) て
去( さ ) ることのできないものです。その
意味( いみ ) で
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) は
個人( こじん ) のアイデンティティに
深( ふか ) く
関( かか ) わるものだといえます。
また、今( いま ) は外国( がいこく ) で暮( く ) らしているからといって、このまま永遠( えいえん ) に外国( がいこく ) で暮( く ) らしつづけるとは限( かぎ ) りません。将来( しょうらい ) は日本( にほん ) に帰( かえ ) って日本( にほん ) で暮( く ) らしたいと考( かんが ) えている人( ひと ) も大勢( おおぜい ) いますし、今( いま ) は将来( しょうらい ) のことはわからない、日本( にほん ) に帰国( きこく ) することは考( かんが ) えていないという人( ひと ) も、仕事( しごと ) や家族( かぞく ) の都合で日本( にほん ) に帰( かえ ) らなければならなくなることもあり得( え ) ます。日本( にほん ) に帰国( きこく ) することになった場合( ばあい ) 、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) がないと外国人( がいこくじん ) として日本( にほん ) に入国( にゅうこく ) し、暮( く ) らさなくてはなりません。
第( だい ) 6 憲法( けんぽう ) の何( なに ) に違反( いはん ) するの?
大( おお ) きくいうと、
二( ふた ) つあります。
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) 発生( はっせい ) 防止( ぼうし ) を理由( りゆう ) に日本( にほん ) 国民( こくみん ) から日本( にほん ) 国籍( こくせき ) をはく奪( だつ ) することは、国民( こくみん ) 主権( しゅけん ) 原理( げんり ) 、基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 尊重( そんちょう ) 原理( げんり ) 、「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) (憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) )、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) の自由( じゆう ) とあわせて離脱( りだつ ) しない自由( じゆう ) を定( さだ ) めた憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう ) に違反( いはん ) する、という点( てん ) 。
もう一( ひと ) つは、複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の発生( はっせい ) 原因( げんいん ) にはいろいろな場面( ばめん ) があって、複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の弊害( へいがい ) のおそれは発生( はっせい ) 原因( げんいん ) が違( ちが ) っても同( おな ) じなのに、どうして外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を志望( しぼう ) 取得( しゅとく ) した場合( ばあい ) にだけ複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を徹底( てってい ) して防止( ぼうし ) しようとするの? それって差別( さべつ ) で、平等( びょうどう ) 原則( げんそく ) (憲法( けんぽう ) 14条( じょう ) 1項( こう ) )違反( いはん ) じゃん! という点( てん ) 。
です。
国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11
条( じょう ) 1
項( こう ) の
憲法( けんぽう ) 14
条( じょう ) 1
項( こう ) 違反( いはん ) については、
詳細( しょうさい ) を
論( ろん ) じた
文献( ぶんけん ) はみつけられていませんが、
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) のはく
奪( だつ ) は
厳( きび ) しく
制限( せいげん ) されるとする
見解( けんかい ) は
少( すく ) なくありません。
中には
国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11
条( じょう ) 1
項( こう ) の
憲法( けんぽう ) 22
条( じょう ) 2
項( こう ) 違反( いはん ) の
可能性( かのうせい ) にずばり
言及( げんきゅう ) しているものもあります。
訴訟( そしょう ) で
証拠( しょうこ ) として
提出( ていしゅつ ) した
文献( ぶんけん ) を
参考( さんこう ) として
挙( あ ) げておきます。
松本和彦( まつもとかずひこ/rt>) (憲法( けんぽう ) Ⅰ基本権( きほんけん ) 、宍戸( ししど ) ・松本( まつもと ) (321頁( ページ ) ))
「
国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) の
自由( じゆう ) は、
国籍( こくせき ) を
離脱( りだつ ) しない
自由( じゆう ) 、すなわち、
現在( げんざい ) 有( ゆう ) している
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を
喪失( そうしつ ) させられることのない
自由( じゆう ) も
含( ふく ) むと
解( かい ) される。それゆえ、
国籍( こくせき ) を
恣意的( しいてき ) に
剥奪( はくだつ ) されない
自由( じゆう ) も、ここで
保障( ほしょう ) される。…
仮( かり ) に 二重国籍( にじゅうこくせき ) 防止( ぼうし ) の
正当性( せいとうせい ) が
失( うしな ) われたら、
外国籍( がいこくせき ) の
取得( しゅとく ) ・
選択( せんたく ) に
伴( ともな ) う
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の
喪失( そうしつ ) も、
国籍( こくせき ) を
離脱( りだつ ) しない
自由( じゆう ) の
侵害( しんがい ) を
意味( いみ ) することになろう。」
赤坂正浩( あかさかまさひろ ) (憲法( けんぽう ) 1人権( じんけん ) 〔第( だい ) 5版( はん ) 版〕、14頁( ページ ) )
「国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) は、政治的( せいじてき ) ・宗教的( しゅうきょうてき ) ・民族的( みんぞくてき ) 理由( りゆう ) などで自国( じこく ) 政府( せいふ ) から迫害( はくがい ) を受( う ) けた国民( こくみん ) が、その法的支配( ほうてきしはい ) を脱( だっ ) して他国( たこく ) の構成員( こうせいいん ) になるという、政治的( せいじてき ) には大変( たいへん ) 重要( じゅうよう ) な意味( いみ ) を持( も ) つ決断( けつだん ) の場合( ばあい ) がある。日本国( にほんこく ) 憲法( けんぽう ) は、個人( こじん ) の価値( かち ) は国家( こっか ) の価値( かち ) にまさるという「個人( こじん ) 主義( しゅぎ ) 」の立場( たちば ) を徹底( てってい ) させて、国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) を権利( けんり ) として認( みと ) めた。逆( ぎゃく ) に、日本( にほん ) 政府( せいふ ) が日本( にほん ) 国民( こくみん ) の国籍( こくせき ) を剥奪( はくだつ ) することは、この規定( きてい ) が禁止( きんし ) していると理解( りかい/rt>) できる。」
松井茂記( まついしげのり ) (日本国( にほんこく ) 憲法( けんぽう ) 〔第( だい ) 3版( はん ) 〕、139頁( ページ ) )
「日本国( にほんこく ) 憲法( けんぽう ) は、日本( にほん ) という政治( せいじ ) 共同体( きょうどうたい ) の不可欠( ふかけつ ) の構成員( こうせいいん ) である「市民( しみん ) 」を当然( とうぜん ) 「国民( こくみん ) 」と想定( そうてい ) している。国会( こっかい ) は、これらのすべての市民( しみん ) に日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を与( あた ) える憲法( けんぽう ) 上( じょう ) の義務( ぎむ ) がある。それゆえ、国籍( こくせき ) を定( さだ ) める国会( こっかい ) の権限( けんげん ) は憲法( けんぽう ) によって大( おお ) きく制約( せいやく ) されているというべきである。それゆえ、これらの市民( しみん ) の国籍( こくせき ) を否定( ひてい ) したり国籍( こくせき ) を剥奪( はくだつ ) することは、やむにやまれない政府( せいふ ) 利益( りえき ) を達成( たっせい ) するために必要( ひつよう ) 不可欠( ふかけつ ) な場合( ばあい ) でなければ許( ゆる ) されないものと考( かんが ) えるべきである。」
長谷部恭男( はせべくにお ) (注釈( ちゅうしゃく ) 日本国( にほんこく ) 憲法( けんぽう ) (2)、45頁( ページ ) )
沿革( えんかく ) として美濃部達吉( みのべたつきち ) の「国家( こっか ) は国民( こくみん ) の意思( いし ) に反( はん ) して一方( いっぽう ) 的( てき ) に之( これ ) (国籍( こくせき ) )を剥奪( はくだつ ) することを得( え ) ず」との見解( けんかい ) を引用( いんよう ) し、アメリカ判例( はんれい ) 、イギリス国籍法( こくせきほう ) を比較( ひかく ) 対象( たいしょう ) として挙( あ ) げたうえで、「国籍( こくせき ) の保持( ほじ ) が当該( とうがい ) 国家( こっか ) によって自己( じこ ) の権利( けんり ) ・利益( りえき ) を保障( ほしょう ) される前提( ぜんてい ) 条件( じょうけん ) となっていることを考( かんが ) えれば、合衆国( がっしゅうこく ) 判例( はんれい ) の立場( たちば ) を原則( げんそく ) とすべきであろう」として、本人( ほんにん ) の意思( いし ) に反( はん ) して国籍( こくせき ) を奪( うば ) うことは原則( げんそく ) としてできないと論( ろん ) じています。
(ここで挙( あ ) げられている合衆国( がっしゅうこく ) 判例( はんれい ) とは、連邦( れんぽう ) 議会( ぎかい ) は合衆国( がっしゅうこく ) 市民権( しみんけん ) を本人( ほんにん ) の意思( いし ) に反( はん ) して奪( うば ) うことができないとするAfroyim v. Rusk, 387 U.S.253,267(1967)のことです。)
宍戸常寿( ししどじょうじ ) (憲法( けんぽう ) Ⅰ基本権( きほんけん ) 、33頁( ページ ) )
平成( へいせい ) 20(2008)年( ねん ) 6月( がつ ) 4日( よっか ) 最高裁判所( さいこうさいばんしょ ) 大法廷( だいほうてい ) 判決( はんけつ ) をふまえて「国籍( こくせき ) の付与( ふよ ) が立法( りっぽう ) 裁量( さいりょう ) に属( ぞく ) するとしても、ひとたび国籍( こくせき ) を取得( しゅとく ) した者( もの ) から、公権力( こうけんりょく ) が、恣意的( しいてき ) に国籍( こくせき ) を奪( うば ) うことは憲法上( けんぽうじょう ) 禁止( きんし ) されていると解( かい ) すべきである。」と論( ろん ) じています。
近藤敦( こんどうあつし ) (人権法( じんけんほう ) 、44頁( ページ ) )
端的( たんてき ) に日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の恣意的( しいてき ) 剥奪( はくだつ ) は禁止( きんし ) されるとしています。
さらに、近藤敦( こんどうあつし ) (「複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) と国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) の自由( じゆう ) 」、2020年( ねん ) 、『重国籍( じゅうこくせき ) 制度( せいど ) および重国籍者( じゅうこくせきしゃ ) に関( かん ) する学際的( がくさいてき ) 研究( けんきゅう ) 研究成果( けんきゅうせいか ) 報告書( ほうこくしょ ) 』) は、次( つぎ ) のように論( ろん ) じています。
「日本国( にほんこく ) 憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう ) の沿革( えんかく ) は、イギリスなどからの移民( いみん ) に対( たい ) して、1868年( ねん ) にアメリカ議会( ぎかい ) が「国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) は、すべての人民( じんみん ) の自然( しぜん ) かつ固有( こゆう ) の権利( けんり ) 」と宣言( せんげん ) したことに由来( ゆらい ) する。しかし、実際( じっさい ) には、国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) の自由( じゆう ) は、「個人( こじん ) の意思( いし ) に反( はん ) して国籍( こくせき ) の離脱( りだつ ) を強制( きょうせい ) されない自由( じゆう ) 」の側面( そくめん ) も重要( じゅうよう ) である。「自己( じこ ) の意思( いし ) に反( はん ) して国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) しない自由( じゆう ) 」、すなわち「自発的( じはつてき ) に国籍( こくせき ) を放棄( ほうき ) しない限( かぎ ) り、自由( じゆう ) な国( くに ) に国民( こくみん ) として留( くに ) まる憲法( けんぽう ) 上( じょう ) の権利( けんり ) 」を「すべて国民( こくみん ) は、個人( こじん ) として尊重( そんちょう ) される。生命( せいめい ) 、自由( じゆう ) 及( およ/rt>) び幸福追求( こうふくついきゅう ) に対( たい ) する国民( こくみん ) の権利( けんり ) については、公共( こうきょう ) の福祉( ふくし ) に反( はん ) しない限( かぎ ) り、立法( りっぽう ) その他( た ) の国政( こくせい ) の上( うえ ) で、最大( さいだい ) の尊重( そんちょう ) を必要( ひつよう ) とする」と定( さだ ) める憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) と結( むす ) びついた憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう ) の「国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) する自由( じゆう ) 」が保障( ほしょう ) している。後述( こうじゅつ ) するAfroyim v. Rusk, 387 U.S.253 (1967)およびVance v. Terrazas, 444 U.S.252(1980)にみるように、国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) の強制( きょうせい ) について、立法( りっぽう ) 裁量( さいりょう ) に制約( せいやく ) を課( か ) すのが今日( こんにち ) のアメリカの重要( じゅうよう ) な判例( はんれい ) 法理( ほうり ) である。国籍( こくせき ) を定( さだ ) める国会( こっかい ) の権限( けんげん ) は憲法( けんぽう ) によって大( おお ) きく制限( せいげん ) されており、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を剥奪( はくだつ ) することは、やむにやまれぬ政府( せいふ ) 利益( りえき ) を達成( たっせい ) するために必要( ひつよう ) 不可欠( ふかけつ ) な場合( ばあい ) でなければ許( ゆる ) されない。特別( とくべつ ) に国家( こっか ) の安全( あんぜん ) や国益( こくえき ) を脅( おびや ) かす事例( じれい ) を除( のぞ ) き、一般( いっぱん ) に、通常( つうじょう ) の帰化( きか ) などにより外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取得( しゅとく ) しただけで日本( にほん ) 国民( こくみん ) の国籍( こくせき ) を剥奪( はくだつ ) する場合( ばあい ) に、やむにやまれぬ政府( せいふ ) 利益( りえき ) があるものとはいえない。」
宮崎繁樹( みやざきしげき ) (放棄( ほうき ) された領土( りょうど ) と住民( じゅうみん ) の国籍( こくせき ) (42頁( ページ ) ))
ローマ法( ほう ) 以来( いらい ) の法原則( ほうげんそく ) (「法律( ほうりつ ) が共通( きょうつう ) 善( ぜん ) に合致( がっち ) するためには、民衆( みんしゅう ) の承諾( しょうだく ) よりも良( よ ) いしるしはない。」)及( およ ) び憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) を根拠( こんきょ ) に、次( つぎ ) のように述( の ) べています。
「国籍( こくせき ) 喪失( そうしつ ) によって当該者( とうがいしゃ ) が無国籍者( むこくせきしゃ ) とならない場合( ばあい ) であっても、本人( ほんにん ) の申請( しんせい ) 、同意( どうい ) によらずに当該者( とうがいしゃ ) の国籍( こくせき ) を失( うしな ) わしめんとする場合( ばあい ) は、公共( こうきょう ) の観点( かんてん ) から国籍( こくせき ) の剥奪( はくだつ ) が必要( ひつよう ) と認( みと ) められる場合( ばあい ) に限( かぎ ) られると解( かい ) すべきである。」
ちなみに、
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) はく
奪( だつ ) を
広( ひろ ) く
認( みと ) める
文献( ぶんけん ) は、
原告( げんこく ) ら
弁護団( べんごだん ) が
調査( ちょうさ ) した
範囲( はんい ) では
見当( みあ ) たりませんでした。
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) は、「
我( わ ) が
国( くに ) の
構成員( こうせいいん ) としての
資格( しかく ) であるとともに、
我( わ ) が
国( くに ) において
基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) の
保障( ほしょう ) 、
公的( こうてき ) 資格( しかく ) の
付与( ふよ ) 、
公的( こうてき ) 給付( きゅうふ ) 等( とう ) を
受( う ) ける
上( うえ ) で
意味( いみ ) を
持( も ) つ
重要( じゅうよう ) な
法的地位( ほうてきちい ) 」です(
最高裁判所( さいこうさいばんしょ ) 平成( へいせい ) 20(2008)
年( ねん ) 6
月( がつ ) 4日( よっか ) 大法廷( だいほうてい ) 判決( はんけつ ) (
国籍法( こくせきほう ) 3
条( じょう ) 1
項( こう ) 違憲( いけん ) 判決( はんけつ ) ))。
そして、憲法( けんぽう ) は国民( こくみん ) 主権( しゅけん ) 原理( げんり ) およびそれに基( もと ) づく代表( だいひょう ) 民主制( みんしゅせい ) の原理( げんり ) を定( さだ ) めており、これら両( りょう ) 原理( げんり ) は、基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) の尊重( そんちょう ) と確立( かくりつ ) を目的( もくてき ) とし、基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 保障( ほしょう ) のための手段( しゅだん ) として不可分( ふかぶん ) の関係( かんけい ) にあるとされています(芦部信喜( あしべのぶよし ) ・憲法( けんぽう ) 第( だい ) 5版( はん ) (37頁( ページ ) ))。
憲法( けんぽう ) 10条( じょう ) は「日本( にほん ) 国民( こくみん ) たる要件( ようけん ) は、法律( ほうりつ ) でこれを定( さだ ) める。」としていますが、法律( ほうりつ ) でどんな定( さだ ) め方( かた ) をしても良( よ ) いわけではありません。「日本( にほん ) 国民( こくみん ) たる要件( ようけん ) 」を定( さだ ) める法律( ほうりつ ) つまり国籍法( こくせきほう ) の条文( じょうぶん ) が、国民( こくみん ) 主権( しゅけん ) 原理( げんり ) や基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 尊重( そんちょう ) 原理( げんり ) 、「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) 、平等( びょうどう ) 原則( げんそく ) などの憲法( けんぽう ) 原理( げんり ) に違反( いはん ) していれば、その条文( じょうぶん ) は憲法( けんぽう ) 10条( じょう ) 違反( いはん ) で違憲( いけん ) 無効( むこう ) となります。
国民( こくみん ) 主権( しゅけん ) 原理( げんり ) や基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 尊重( そんちょう ) 原理( げんり ) 、「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) 、憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) および22条( じょう ) 2項( こう ) は、要約( ようやく ) すると以下( いか ) の理由( りゆう ) で、ウルトラ厳( きび ) しく日本( にほん ) 国籍( こくせき ) のはく奪( だつ ) を制約( せいやく ) しています。
(1)国民( こくみん ) 主権( しゅけん ) 原理( げんり ) (憲法( けんぽう ) 前文1項( こう ) 、1条( じょう ) 、15条( じょう ) 1項( こう ) 、43条( じょう ) 1項( こう ) 、96条( じょう ) 等)
憲法( けんぽう ) の正統性( せいとうせい ) は、主権者( しゅけんしゃ ) である国民( こくみん ) に由来( ゆらい ) します。
主権者( しゅけんしゃ ) である国民( こくみん ) から日本( にほん ) 国籍( こくせき ) をはく奪( だつ ) することは、憲法( けんぽう ) の正統性( せいとうせい ) の根源( こんげん ) を損( そこ ) なうことであり、不可欠( ふかけつ ) 極( きわ ) まりないほどに重要( じゅうよう ) な立法( りっぽう ) 目的( もくてき ) がないと許( ゆる ) されません。
また、憲法( けんぽう ) は、すべての国民( こくみん ) に、主権者( しゅけんしゃ ) として代表( だいひょう ) 民主制( みんしゅせい ) の過程( かてい ) に関( かか ) わり続( つづ ) けられることを保障( ほしょう ) しています。
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) をはく奪( だつ ) されると、日本国( にほんこく ) の主権者( しゅけんしゃ ) としての地位( ちい ) を失( うしな ) い、日本国( にほんこく ) の主権者( しゅけんしゃ ) グループから追放( ついほう ) されてしまいます。日本( にほん ) 国籍( こくせき ) さえあれば、議会制( ぎかいせい ) 民主( みんしゅ ) 主義( しゅぎ ) の過程( かてい ) に参加( さんか ) して不利益( ふりえき ) をなくしたり損害( そんがい ) を回復( かいふく ) していく道( みち ) が残( のこ ) されますが、それができなくなります。
憲法( けんぽう ) の要請( ようせい ) する代表( だいひょう ) 民主制( みんしゅせい ) は、多様( たよう ) な価値観( かちかん ) を有( ゆう ) する国民( こくみん ) が選挙( せんきょ ) と議会( ぎかい ) を通( つう ) じて協働( きょうどう ) し国家( こっか ) 統治( とうち ) に参加( さんか ) していくというものです。
その過程( かてい ) では、さまざまな個人( こじん ) 、集団( しゅうだん ) が交差( こうさ ) し、「どの一( ひと ) つの集団( しゅうだん ) も、政治( せいじ ) を支配( しはい ) するほど強力( きょうりょく ) な力( ちから ) は持( も ) ちえない」少数者( しょうすうしゃ ) であって、「集団( しゅうだん ) が多数者( たすうしゃ ) を形成( けいせい ) するためには、利害( りがい ) 関係( かんけい ) の異( こと ) なる集団( しゅうだん ) との提携( ていけい ) によるしかない。それゆえ今日( きょう ) の多数者( たすうしゃ ) は明日( あす ) の少数者( しょうすうしゃ ) であり、今日( きょう ) の少数者( しょうすうしゃ ) は明日( あす ) の多数者( たすうしゃ ) である」と言( い ) えます。
多様( たよう ) な価値観( かちかん ) が尊重( そんちょう ) されるべきことを前提( ぜんてい ) とする憲法( けんぽう ) は、民主制( みんしゅせい ) のこのようなメカニズムが作動( さどう ) する過程( かてい ) を保障( ほしょう ) したもの、つまり「現( げん ) に政権( せいけん ) の座( ざ ) にある集団( しゅうだん ) が自分( じぶん ) たちがいつまでも権力( けんりょく ) の座( ざ ) にいることができるよう、政治( せいじ ) 変化( へんか ) の経路( けいろ ) を閉( と ) ざしてしまったり、特定( とくてい ) の少数者( しょうすうしゃ ) を排斥( はいせき ) して新( あたら ) しい連合体( れんごうたい ) の形成( けいせい ) を阻止( そし ) しようとしたりすることを禁止( きんし ) したもの」と解( かい ) されます。(この「ちょっと詳( くわ ) しく」の「 」内( ない ) は松井茂記( まついしげのり ) ・日本国( にほんこく ) 憲法( けんぽう ) 第( だい ) 3版( はん ) (39頁( ページ ) )からの引用( いんよう ) です)。
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) のはく奪( だつ ) は、「特定( とくてい ) の少数者( しょうすうしゃ ) を排斥( はいせき ) して新( あたら ) しい連合体( れんごうたい ) の形成( けいせい ) を阻止( そし ) しようとしたりすること」に当( あ ) たると考( かんが ) えられます。
憲法( けんぽう ) は、すべての国民( こくみん ) が国民( こくみん ) としての権利( けんり ) を行使( こうし ) し、政治( せいじ ) 参加( さんか ) することのできる過程( かてい ) を保障( ほしょう ) しています。
多様( たよう ) な価値観( かちかん ) 、多様( たよう ) な生( い ) き方( かた ) の日本( にほん ) 国民( こくみん ) が、個人( こじん ) として尊重( そんちょう ) され、政治( せいじ ) の場面( ばめん ) ではその折々( おりおり ) の多数派( たすうは ) をつくって国( くに ) の政策( せいさく ) を決定( けってい ) していく。これが憲法( けんぽう ) の定( さだ ) める統治( とうち ) のあり方( かた ) です。その過程( かてい ) から日本( にほん ) 国民( こくみん ) を追放( ついほう ) することは、現憲法( げんけんぽう ) 下( か ) の統治( とうち ) の正統性( せいとうせい ) を損( そこ ) ないかねない重大( じゅうだい ) な事態( じたい ) です。
このような事態( じたい ) を招( まね ) く日本( にほん ) 国籍( こくせき ) はく奪( だつ ) は、不可欠( ふかけつ ) 極( きわ ) まりないほどに重要( じゅうよう ) な立法( りっぽう ) 目的( もくてき ) がないと許( ゆる ) されません。
(2)基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 尊重( そんちょう ) 原理( げんり ) (憲法( けんぽう ) 前文( ぜんぶん ) 1項( こう ) 、11条( じょう ) 、12条( じょう ) 、97条( じょう ) 、第( だい ) 3章( しょう ) )
憲法( けんぽう ) は、日本( にほん ) 国民( こくみん ) の基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) の保障( ほしょう ) を目的( もくてき ) としています。
その一方( いっぽう ) で、外国人( がいこくじん ) に対( たい ) する憲法( けんぽう ) 上( じょう ) の権利( けんり ) の保障( ほしょう ) は、法務大臣( ほうむだいじん ) の裁量( さいりょう ) に任( まか ) せられた在留( ざいりゅう ) 制度( せいど ) の枠内( わくない ) で与( あた ) えられるものにすぎないとされています(最高裁判所( さいこうさいばんしょ ) 昭和( しょうわ ) 53(1978)年( ねん ) 10月( がつ ) 4日( よっか ) 大法廷( だいほうてい ) 判決( はんけつ ) (マクリーン事件( じけん ) 判決( はんけつ ) ))。
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) のはく奪( だつ ) は、憲法( けんぽう ) 上( じょう ) の基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 保障( ほしょう ) を受( う ) ける土台( どだい ) を根( ね ) こそぎ奪( うば ) われることを意味( いみ ) します。
このような重要( じゅうよう ) な地位( ちい ) ・資格( しかく ) である日本( にほん ) 国籍( こくせき ) をはく奪( だつ ) することは、不可欠( ふかけつ ) 極( きわ ) まりないほどに重要( じゅうよう ) な立法( りっぽう ) 目的( もくてき ) がないと許( ゆる ) されません。
(3)「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) (憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) )、憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう )
憲法( けんぽう ) の根底( こんてい ) には「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) があります。
憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) 前段( ぜんだん ) は、立憲( りっけん ) 主義( しゅぎ ) 及び基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 保障( ほしょう ) の基盤( きばん ) である「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) を、日本国( にほんこく ) の「基本的( きほんてき ) 価値( かち ) 」であり、「全法秩序( ぜんほうちつじょ ) の指針( ししん ) 」となる憲法( けんぽう ) の「根本( こんぽん ) 原理( げんり ) 」として定( さだ ) めています(土井真一( どいまさかず ) 、注釈( ちゅうしゃく ) 日本国( にほんこく ) 憲法( けんぽう ) (2)(64頁( ページ ) ))。
その具体的( ぐたいてき ) な現( あらわ ) れとして、憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) 後段( こうだん ) は、日本( にほん ) 国民( こくみん ) の幸福追求権( こうふくついきゅうけん ) は立法( りっぽう ) その他の国政の上で最大の尊重( そんちょう ) が求( もと ) められると定( さだ ) めています。
外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取得( しゅとく ) したことを理由( りゆう ) に日本( にほん ) 国籍( こくせき ) をはく奪( だつ ) することは、外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を取得( しゅとく ) して活躍( かつやく ) したい、生活( せいかつ ) の安定( あんてい ) を確保( かくほ ) したい、などと望( のぞ ) む、日本( にほん ) 国民( こくみん ) の幸福追求権( こうふくついきゅうけん ) を侵害( しんがい ) します。
また、日本国( にほんこく ) の主権者( しゅけんしゃ ) としての地位( ちい ) であり基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 保障( ほしょう ) の土台( どだい ) でもあるという、憲法( けんぽう ) 上( じょう ) 極( きわ ) めて重要( じゅうよう ) な意味( いみ ) を持( も ) つ日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) するかどうかは、「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) の下( もと ) では、個人( こじん ) の自由( じゆう ) 意思( いし ) で決定( けってい ) されなくてはなりません。
この自由( じゆう ) 意思( いし ) による決定( けってい ) については、憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう ) が、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) する自由( じゆう ) とともに日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) しない自由( じゆう ) を、憲法( けんぽう ) 上( じょう ) の人権( じんけん ) として保障( ほしょう ) しています。
憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう ) は、「何人( なんぴと ) も、外国( がいこく ) に移住( いじゅう ) し、又( また ) は国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) する自由( じゆう ) を侵( おか ) されない。」と定( さだ ) めています。
一見( いっけん ) 、「国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) しない自由( じゆう ) 」については何( なに ) も書( か ) れていないように見( み ) える条文( じょうぶん ) です。
しかし、「○○する自由( じゆう ) 」を保障( ほしょう ) するということは、「○○しない自由( じゆう ) 」を行使( こうし ) できること(保障( ほしょう ) されていること)が当然( とうぜん ) の前提( ぜんてい ) です。
たとえば、表現( ひょうげん ) の自由( じゆう ) の保障( ほしょう ) (憲法( けんぽう ) 21条( じょう ) 1項( こう ) )は、表現( ひょうげん ) する自由( じゆう ) も表現( ひょうげん ) しない自由( じゆう ) も保障( ほしょう ) いています。信教( しんきょう ) の自由( じゆう ) の保障( ほしょう ) (憲法( けんぽう ) 20条( じょう ) 1項( こう ) )は、信仰( しんこう ) する自由( じゆう ) も信仰( しんこう ) しない自由( じゆう ) も保障( ほしょう ) しています。
同( おな ) じように、国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) の自由( じゆう ) の保障( ほしょう ) (憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう ) )も、「国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) する自由( じゆう ) 」も「国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) をしない自由( じゆう ) 」も保障( ほしょう ) しています。
もし「国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) をしない自由( じゆう ) 」がなければ、国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) をするかしないか、離脱( りだつ ) するとしてもいつ離脱( りだつ ) するのか、個人( こじん ) は自由( じゆう ) に選( えら ) べないことになります。そうすると「国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) すること」が強制( きょうせい ) されてしまい、「国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) する自由( じゆう ) 」が保障( ほしょう ) されないことになってしまいます。
つまり「国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) する自由( じゆう ) 」は、「国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) をしない自由( じゆう ) 」が保障( ほしょう ) されていてはじめて保障( ほしょう ) される自由( じゆう ) なのです。
(4) 複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の発生( はっせい ) 防止( ぼうし ) は、これらの憲法( けんぽう ) 原理( げんり ) や憲法( けんぽう ) 規定( きてい ) を超( こ ) えて日本( にほん ) 国籍( こくせき ) はく奪( だつ ) を正当化( せいとうか ) できるほど重要( じゅうよう ) な立法( りっぽう ) 目的( もくてき ) とは言( い ) えません。 (Q4ー3参照( さんしょう ) )
憲法( けんぽう ) 22
条( じょう ) 2
項( こう ) の
保障( ほしょう ) する「
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) 離脱( りだつ ) の
自由( じゆう ) 」は、
無国籍( むこくせき ) 発生( はっせい ) を
防( ふせ ) ぐという
国際法( こくさいほう ) 上( じょう ) の
要請( ようせい ) から、
外国( がいこく ) の
国籍( こくせき ) をもつ
日本( にほん ) 国民( こくみん ) (つまり
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
人( ひと ) )だけが
対象( たいしょう ) となります(
松本和彦( まつもとかずひこ ) 「
憲法( けんぽう ) Ⅰ
基本権( きほんけん ) 」321
頁( ページ ) ほか。
昭和( しょうわ ) 25(1950)
年( ねん ) 4
月( がつ ) 19
日( にち ) 参議院( さんぎいん ) 法務委員会( ほうむいいんかい ) における
村上朝一( むらかみともかず ) 政府( せいふ ) 委員( いいん ) の
答弁( とうべん ) 、
会議録( かいぎろく ) 8
頁( ページ ) 第( だい ) 2~
第( だい ) 3
段( だん ) )。
そして、
外国( がいこく ) の
国籍( こくせき ) をもつ
日本( にほん ) 国民( こくみん ) は、
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を
離脱( りだつ ) する
自由( じゆう ) だけでなく
離脱( りだつ ) しない
自由( じゆう ) を
保障( ほしょう ) されています(
上述( じょうじゅつ ) (3)の「ちょっと
詳( くわ ) しく2」
参照( さんしょう ) )。
つまり、
憲法( けんぽう ) は、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
日本( にほん ) 国民( こくみん ) が
存在( そんざい ) することを
前提( ぜんてい ) に、その
個人( こじん ) が
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を
離脱( りだつ ) して
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
解消( かいしょう ) するのも
自由( じゆう ) 、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
解消( かいしょう ) しないで
維持( いじ ) するのも
自由( じゆう ) である、としています。
このように、
憲法( けんぽう ) は
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
禁止( きんし ) などしていません。
したがって、国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) は、国民( こくみん ) 主権( しゅけん ) 原理( げんり ) 、基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) 尊重( そんちょう ) 原理( げんり ) 、「個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 」原理( げんり ) 、憲法( けんぽう ) 10条( じょう ) 、憲法( けんぽう ) 13条( じょう ) 及び22条( じょう ) 2項( こう ) に違反( いはん ) していると考( かんが ) えられます。
下( した ) のチャートをご
覧( らん ) ください。
日本( にほん ) の
国籍法( こくせきほう ) はいろいろな
場合( ばあい ) に
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を
発生( はっせい ) させ、そうして
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) になった
人( ひと ) たちに
国籍( こくせき ) 選択( せんたく ) の
機会( きかい ) と
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を
保持( ほじ ) する
機会( きかい ) を
肯定( こうてい ) しています。
ところが、
外国籍( がいこくせき ) の
志望( しぼう ) 取得( しゅとく ) をした
人( ひと ) には、
国籍( こくせき ) 選択( せんたく ) をする
機会( きかい ) と
日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を
保持( ほじ ) する
機会( きかい ) が
認( みと ) められていません。
この
区別( くべつ ) に
合理性( ごうりせい ) はなく、
平等( びょうどう ) 原則( げんそく ) に
違反( いはん ) していると
考( かんが ) えられます。
憲法( けんぽう ) 14 条( じょう ) 1項( こう ) 「すべて国民( こくみん ) は、法( ほう ) の下( もと ) に平等( びょうどう ) であつて、人種( じんしゅ ) 、信条( しんじょう ) 、性別( せいべつ ) 、社会的( しゃかいてき ) 身分( みぶん ) 又( また ) は門地( もんち ) により、政治的( せいじてき ) 、経済的( けいざいてき ) 又( また ) は社会的( しゃかいてき ) 関係( かんけい ) において、差別( さべつ ) されない。」
日本( にほん ) の
国籍法( こくせきほう ) で
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) が
発生( はっせい ) する
場合( ばあい ) を
説明( せつめい ) すると、
以下( いか ) のとおりとなります。
(1)外国籍( がいこくせき ) の当然( とうぜん ) 取得( しゅとく ) (
国際( こくさい ) 結婚( けっこん ) や
国際( こくさい ) 養子縁組( ようしえんぐみ ) の
結果( けっか ) 、
外国籍( がいこくせき ) を
自動的( じどうてき ) に
付与( ふよ ) される
場合( ばあい ) )
(2)出生( しゅっせい ) による複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) (1984
年( ねん ) 改正( かいせい ) で父母( ふぼ ) 両系主義( しゅぎ ) を採用( さいよう ) するまでは、父親( ちちおや ) からのみ日本( にほん ) 国籍( こくせき ) が受( う ) け継( つ ) がれる仕組( しく ) みでした。)
(3)外国( がいこく ) で生( う ) まれ出生( しゅっせい ) により外国籍( がいこくせき ) を取得( しゅとく ) した場合( ばあい ) に、出生( しゅっせい ) 後( ご ) 3カ月( げつ ) 以内( いない ) に日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の留保( りゅうほ ) 手続( てつづき ) (12条( じょう ) )をおこなった場合( ばあい )
(4)外国人( がいこくじん ) が日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を志望( しぼう ) 取得( しゅとく ) する場合( ばあい )
ア 認知( にんち ) による国籍( こくせき ) 取得( しゅとく ) に起因( きいん ) する複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) (3条( じょう ) 1項( こう ) 。外国( がいこく ) 国籍( こくせき ) のみを有( ゆう ) する子( こ ) が、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の父( ちち ) の認知( にんち ) を受( う ) ける等( とう ) して法務大臣( ほうむだいじん ) に届( とど ) けた場合( ばあい ) )
イ 日本( にほん ) への帰化( きか ) 申請者( しんせいしゃ ) が帰化( きか ) を認( みと ) められるまでに元( もと ) の国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) できない場合( ばあい ) に、元( もと ) の国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) しないままで帰化( きか ) できるとしたことに起因( きいん ) する複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) (5条( じょう ) 2項( こう ) 。元( もと ) の国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) しないと日本( にほん ) 国籍( こくせき ) 取得( しゅとく ) はできないという原則( げんそく ) (5条( じょう ) 1項( こう ) 5号( ごう ) )に対( たい ) する例外( れいがい ) 規定( きてい ) です。この例外( れいがい ) に当てはまらない場合( ばあい ) は、元( もと ) の国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) してからでないと日本( にほん ) 国籍( こくせき ) 取得( しゅとく ) は認( みと ) められません)
ウ 国籍( こくせき ) 再取得( さいしゅとく ) に起因( きいん ) する複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) (17条( じょう ) 1項( こう ) 。日本( にほん ) 国民( こくみん ) の子( こ ) として海外( かいがい ) で生( う ) まれたのに国籍( こくせき ) 留保( りゅうほ ) 届( とどけ ) がされず外国籍( がいこくせき ) のみとなった子( こ ) が、一定( いってい ) の条件( じょうけん ) を満( み ) たして法務大臣( ほうむだいじん ) に届( とど ) け出( で ) た場合( ばあい ) )
1984年( ねん ) の国籍法( こくせきほう ) 改正( かいせい ) で、(2)の父母( ふぼ ) 両系( りょうけい ) 主義( しゅぎ ) による複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) と、(4)ア~ウによる複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) が新( あら ) たに生( しょう ) じることになりました。
意外( いがい ) に
思( おも ) われるかも
知( し ) れませんが、
日本( にほん ) の
国籍法( こくせきほう ) も、1984
年( ねん ) 改正( かいせい ) 以降( いこう ) 、
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
発生( はっせい ) を
広( ひろ ) く
肯定( こうてい ) するようになっています。
そして日本( にほん ) 政府( せいふ ) は、増( ふ ) えていくのが確実な複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を、本人( ほんにん ) の意思( いし ) を尊重( そんちょう ) しながら、できる範囲( はんい ) で解消( かいしょう ) することにしよう、という方針( ほうしん ) を採用( さいよう ) しました。
ところが、国籍法( こくせきほう ) には、本人( ほんにん ) の意思( いし ) とは無関係( むかんけい ) に複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を徹底( てってい ) して防止( ぼうし ) する仕組( しく ) みが2つだけ残( のこ ) っています。
①日本( にほん ) 国民( こくみん ) が外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を志望( しぼう ) 取得( しゅとく ) した場合( ばあい ) (外国( がいこく ) への帰化( きか ) 、国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) )
②外国人( がいこくじん ) が日本( にほん ) に帰化( きか ) をしようとしていて、その人( ひと ) の国籍( こくせき ) 国( くに ) の法律( ほうりつ ) とその運用( うんよう ) が、日本( にほん ) への帰化( きか ) の前( まえ ) か帰化( きか ) と同時( どうじ ) に元( もと ) の国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) できるあるいは喪失( そうしつ ) させると定( さだ ) めている場合( ばあい ) (5条( じょう ) 2項( こう ) の例外( れいがい ) にあてはまらない場合( ばあい ) )
この①が、今回( こんかい ) の訴訟( そしょう ) で問題( もんだい ) とされている国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) 、「国籍( こくせき ) はく奪( だつ ) 条( じょう ) 項( こう ) 」です。
原告( げんこく ) は、日本( にほん ) への帰化( きか ) で複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) になる場合( ばあい ) や出生( しゅっせい ) による複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の場合( ばあい ) などは国籍( こくせき ) を選択( せんたく ) する機会( きかい ) (国籍法( こくせきほう ) 14条( じょう ) )があり、最終的( さいしゅうてき ) には複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を保持( ほじ ) する機会( きかい ) もあるのに、①の場合( ばあい ) にそのような機会( きかい ) がないのはおかしい、平等( びょうどう ) 原則( げんそく ) (憲法( けんぽう ) 14条( じょう ) 1項( こう ) )違反( いはん ) であると主張( しゅちょう ) しています。
複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の
日本( にほん ) 国民( こくみん ) は、
一定( いってい ) の
期間内( きかんない ) にどれかひとつの
国籍( こくせき ) を
選択( せんたく ) しなくてはならないとされています(
国籍法( こくせきほう ) 14
条( じょう ) 1
項( こう ) )。
そして、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を選択( せんたく ) する場合( ばあい ) の具体的( ぐたいてき ) な方法( ほうほう ) として、①外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) すること、または、②日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を選択( せんたく ) し、かつ外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) を抛棄( ほうき ) する宣言( せんげん ) (日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の選択( せんたく ) 宣言( せんげん ) 。2019年( ねん ) に大坂( おおさか ) なおみ選手( せんしゅ ) がして話題( わだい ) になりました)をすること、が挙( あ ) げられています(2項( こう ) )。
この14条( じょう ) だけを読( よ ) むと、複数( ふくすう ) の国籍( こくせき ) (人によっては3つ以上あることも)の中から一( ひと ) つを選( えら ) べ、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を選択( せんたく ) するなら外国( がいこく ) の国籍( こくせき ) は捨( す ) てろ、と迫( せま ) っているようにも見( み ) えます。
しかし、他( ほか ) の条文( じょうぶん ) と合( わ ) わせて読( よ ) むと、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の選択( せんたく ) 宣言( せんげん ) をしさえすれば、結果( けっか ) 的( てき ) に両方( りょうほう ) の国籍( こくせき ) を合法的( ごうほうてき ) に保持( ほじ ) できる仕組( しく ) みになっていることがわかります。
というのは、まず、日本( にほん ) 政府( せいふ ) に対( たい ) して「A国( こく ) の国籍( こくせき ) を放棄( ほうき ) します」と宣言( せんげん ) してもA国( こく ) の国籍( こくせき ) がなくなるわけではありません。A国( こく ) の国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) するには、A国( こく ) の国籍法( こくせきほう ) に基( もと ) づく離脱( りだつ ) 手続(離脱( りだつ ) を許( ゆる ) さない国( くに ) や、離脱( りだつ ) がとても難( むずか ) しい国( くに ) もあります)をしなくてはならないからです。
しかも、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の選択( せんたく ) 宣言( せんげん ) をした後( あと ) に外国( がいこく ) 国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) することは、あくまで努力( どりょく ) 義務( ぎむ ) (16条( じょう ) 1項( こう ) )の対象( たいしょう ) に過( す ) ぎません。「離脱( りだつ ) しない」「離脱( りだつ ) できない」ことが違法( いほう ) になるわけではないのです。
なお、国籍法( こくせきほう ) 15条( じょう ) には、法務大臣( ほうむだいじん ) が複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の日本( にほん ) 国民( こくみん ) に対( たい ) して、どちらの国籍( こくせき ) を選( えら ) ぶかの「選択( せんたく ) 」を「催告( さいこく ) 」することができ、「催告( さいこく ) 」されても期間内( きかんない ) に「選択( せんたく ) 」の宣言( せんげん ) をしない者( もの ) の日本( にほん ) 国籍( こくせき ) はなくなる、という規定( きてい ) があります。
いったん催告( さいこく ) してしまえば催告( さいこく ) された側( がわ ) の対応( たいおう ) 次第( しだい ) では本人( ほんにん ) の意思( いし ) に反( はん ) してでも日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を失( うしな ) わせるぞという、強烈( きょうれつ ) な規定( きてい ) です。
しかし、実際( じっさい ) の運用( うんよう ) をみると、この「催告( さいこく ) 」が行( おこな ) われたことは、1984年( ねん ) にこの規定( きてい ) が設( もう ) けられて以来( いらい ) 、一度( いちど ) もありません。
これは、
①平等( びょうどう ) に催告( さいこく ) するには誰( だれ ) が複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) かを正確( せいかく ) に把握( はあく ) する必要( ひつよう ) があるけれども、それがほぼ無理( むり ) なため(外国( がいこく ) が誰( だれ ) に国籍( こくせき ) を与( あた ) えているかを漏( も ) れなく把握( はあく ) することは不可能( ふかのう ) です)、催告( さいこく ) すること自体( じたい ) がただちに平等( びょうどう ) 原則( げんそく ) (憲法( けんぽう ) 14条( じょう ) 1項( こう ) )違反( いはん ) になりかねないこと
②いったん催告( さいこく ) してしまえば催告( さいこく ) された側の対応( たいおう ) 次第( しだい ) では本人( ほんにん ) の意思( いし ) に反( はん ) してでも日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を失( うしな ) わせることになってしまうが、そのような事態( じたい ) は、複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の人に日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を離脱( りだつ ) する自由( じゆう ) (とその反面( はんめん ) としての離脱( りだつ ) しない自由( じゆう ) )を保障( ほしょう ) する憲法( けんぽう ) 22条( じょう ) 2項( こう ) に違反( いはん ) すると考( かんが ) えられること
などが理由( りゆう ) だと考( かんが ) えられます。
「選択( せんたく ) 」を「催告( さいこく ) 」されても、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) の選択( せんたく ) 宣言( せんげん ) をしさえすれば、結果( けっか ) 的( てき ) に両方( りょうほう ) の国籍( こくせき ) を合法的( ごうほうてき ) に保持( ほじ ) できる仕組( しく ) みになっているのは、上( うえ ) で説明( せつめい ) したとおりです。
こういった法律( ほうりつ ) の仕組( しく ) みをみると、日本( にほん ) が複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を一般的( いっぱんてき ) に禁止( きんし ) しているとは言( い ) えないでしょう。
なお、憲法( けんぽう ) が、複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の存在( そんざい ) を当然( とうぜん ) の前提( ぜんてい ) として、複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の存続( そんぞく ) も解消( かいしょう ) も個人( こじん ) の自由( じゆう ) の問題( もんだい ) としていること(つまり憲法( けんぽう ) は複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を禁止( きんし ) などしていないこと)については、Q6-3のちょっと詳( くわ ) しく(3)をご参照( さんしょう ) ください。
大( おお ) きく
言( い ) うと、
下記( かき ) の4
点( てん ) です。
(1)「「国籍( こくせき ) 唯一( ゆいいつ ) の原則( げんそく ) 」が世界( せかい ) で広( ひろ ) く受( う ) け容( い ) れられている!」
←間違( まちが ) い Q4ー3参照( さんしょう )
(2)「国籍( こくせき ) 立法( りっぽう ) は広( ひろ ) い裁量( さいりょう ) がある!」
←間違( まちが ) い。国籍( こくせき ) 立法( りっぽう ) も憲法( けんぽう ) の制約( せいやく ) 下( か ) にありますし、最高裁判所( さいこうさいばんしょ ) 判例( はんれい ) にも国籍( こくせき ) に関( かん ) する立法( りっぽう ) 裁量( さいりょう ) が「広( ひろ ) い」などと言( い ) ったものは皆無( かいむ ) です。 Q6ー2、Q4ー2(ちょっと詳( くわ ) しく(2))参照( さんしょう )
(3)「個人( こじん ) の権利( けんり ) よりも国益( こくえき ) が優先( ゆうせん ) 」「複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) 防止( ぼうし ) は個人( こじん ) の権利( けんり ) に優先( ゆうせん ) されるべき国益( こくえき ) だ!」
←間違( まちが ) い。そもそも憲法論( けんぽうろん ) ではないですね。仮( かり ) に「国益( こくえき ) 」を検討( けんとう ) に入( い ) れるとしても、「国益( こくえき ) 」も現行( げんこう ) 憲法( けんぽう ) の定( さだ ) めた目的( もくてき ) (個人( こじん ) の尊重( そんちょう ) 、基本的( きほんてき ) 人権( じんけん ) の尊重( そんちょう ) 、国民( こくみん ) 主権( しゅけん ) )に沿( そ ) って具体的( ぐたいてき ) に検討( けんとう ) しなくてはなりません。複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の発生( はっせい ) 防止( ぼうし ) 、しかもそのために日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を国民( こくみん ) からはく奪( だつ ) することが現行( げんこう ) 憲法( けんぽう ) 下( か ) で個人( こじん ) の権利( けんり ) よりも優先( ゆうせん ) される「国益( こくえき ) 」だとは、とても言( い ) えないでしょう。
(4)「国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) 以外( いがい ) で複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) が肯定( こうてい ) されていても、それぞれの制度( せいど ) 目的( もくてき ) が異( こと ) なるから平等( びょうどう ) 原則( げんそく ) に反( はん ) しない!」
←間違( まちが ) い。複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) の弊害( へいがい ) は同( おな ) じなのに発生( はっせい ) 原因( げんいん ) によってなぜ異( こと ) なる扱( あつか ) いをするのか、国( くに ) は明( あき ) らかにしていません。ましてや外国籍( がいこくせき ) を志望( しぼう ) 取得( しゅとく ) した場合( ばあい ) にだけ「日本( にほん ) 国民( こくみん ) から日本( にほん ) 国籍( こくせき ) をはく奪( だつ ) 」してまで複数( ふくすう ) 国籍( こくせき ) を防止( ぼうし ) することがなぜ許( ゆる ) されるのかも明( あき ) らかにしていません。 Q6ー4参照( さんしょう )
第( だい ) 7 判決( はんけつ ) へ向( む ) けて
そんなことないもん!
国籍法( こくせきほう ) にも
違憲( いけん ) 判決( はんけつ ) あったんですよ。
平成( へいせい ) 20(2008)年( ねん ) 6月( がつ ) 4日( よっか ) 最高裁判所( さいこうさいばんしょ ) 大法廷( だいほうてい ) 判決( はんけつ ) !
戦後( せんご ) の最高裁( さいこうさい ) の違憲( いけん ) 判決( はんけつ ) 10のうちの一( ひと ) つが、国籍法( こくせきほう ) に関( かん ) するものでした。
日本( にほん ) の
訴訟( そしょう ) の
仕組( しく ) みでは、
原告( げんこく ) たちだけとなります。
ただし、違憲( いけん ) 判決( はんけつ ) は、国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) の改廃を裁判( さいばん ) 所が国会( こっかい ) に促( うなが ) すことを意味( いみ ) します。
詳( くわ ) しくは、Q2-3をご覧( らん ) ください。
あります。たとえば。。。っていうか、あなたもいつ
無関係( むかんけい ) じゃなくなるか、わかりませんよ。
将来( しょうらい ) 何( なに ) が
起( お ) こるかなんて。
そうでなくても、日本( にほん ) 国内( こくない ) で暮( く ) らしている人( ひと ) にとっても、国外( こくがい ) で日本( にほん ) 国民( こくみん ) が発言力( はつげんりょく ) を強( つよ ) められたら、いろいろなメリットがあるのではないでしょうか。
たとえば、フランスが1954年( ねん ) に国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) と同様( どうよう ) の制度( せいど ) をなくしたとき、こんな議論( ぎろん ) があったそうです。
「外国( がいこく ) でフランスの文化( ぶんか ) や道徳的( どうとくてき ) ・経済的( けいざいてき ) 影響( えいきょう ) を伝播( でんぱ ) させられる状況( じょうきょう ) にあるフランス人( じん ) に、たとえ職業( しょくぎょう ) に就( つ ) いている国( くに ) の国籍( こくせき ) を自( みずか ) らの意思( いし ) で獲得( かくとく ) したとしても、フランス国籍( こくせき ) を保持( ほじ ) させることは重要( じゅうよう ) である。国籍( こくせき ) の取得( しゅとく ) はしばしば何( なん ) らかの役割( やくわり ) 行使( こうし ) の条( じょう ) 件である」(パトリック・ヴェイユ『フランス人とは何( なに ) か 国籍( こくせき ) をめぐる包摂( ほうせつ ) と排除( はいじょ ) のポリティクス』、宮島喬( みやじまたかし ) 他訳( ほかやく ) ・明石書店( あかししょてん ) 2019年( ねん ) 、376頁( ページ ) )
また、オーストラリアが2002年( ねん ) に国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) と同様( どうよう ) の規定( きてい ) をなくしたときになされた下記( かき ) の指摘( してき ) も参考( さんこう ) になります。ここでいう市民権( しみんけん ) は、日本( にほん ) の国籍( こくせき ) と同( おな ) じ意味( いみ ) で使( つか ) われています。
「市民権( しみんけん ) を取得( しゅとく ) しようとする国( くに ) で居住( きょじゅう ) ・労働( ろうどう ) することを希望( きぼう ) するオーストラリア市民( しみん ) にとって、オーストラリア市民権( しみんけん ) を失( うしな ) う恐怖( きょうふ ) にさらされ続( つづ ) けることは、その国( くに ) でオーストラリアのプレゼンスを拡大( かくだい ) することについて、不必要( ふひつよう ) な障害( しょうがい ) となっている。委員会( いいんかい ) は、この状況( じょうきょう ) がオーストラリアにとって望( のぞ ) ましい状況( じょうきょう ) だとは考( かんが ) えない。同( おな ) じように、オーストラリアの国益( こくえき ) にも適( かな ) うとは思( おも ) えない。」(「オーストラリアにおける二重( にじゅう ) 市民権( しみんけん ) の位相( いそう ) ―1948年( ねん ) オーストラリア市民権( しみんけん ) 法( ほう ) s17削除論( さくじょろん ) を中心( ちゅうしん ) に」 坂東雄介( ばんどうゆうすけ ) )
原告( げんこく ) 弁護団( べんごだん ) が実施( じっし ) したアンケート結果( けっか ) を裁判所( さいばんしょ ) に提出( ていしゅつ ) するにあたり分析( ぶんせき ) してくれた武田里子( たけださとこ ) 大阪経済法科大学( おおさかけいざいほうかだいがく ) アジア太平洋研究( たいへいようけんきゅう ) センター客員研究員( きゃくいんけんきゅういん ) は、社会( しゃかい ) 保障( ほしょう ) についての日本( にほん ) 社会( しゃかい ) の負担( ふたん ) という観点( かんてん ) から、次( つぎ ) のように述( の ) べています。
「移民( いみん ) 一世( いっせい ) が、いずれ生( う ) まれ育( そだ ) った母国( ぼこく ) に帰( かえ ) りたいと願( ねが ) うのは普遍性( ふへんせい ) をもつ感情( かんじょう ) である。その時( とき ) に日本( にほん ) 国籍( こくせき ) にこだわり永住権( えいじゅうけん ) のまま不利( ふり ) な労働( ろうどう ) 条件( じょうけん ) で働( はたら ) き、老後( ろうご ) の貯( たくわ ) えも不十分( ふじゅうぶん ) なまま帰還( きかん ) する場合( ばあい ) と、日本( にほん ) 国籍( こくせき ) を保持( ほじ ) したまま居住国( きょじゅうこく ) の市民権( しみんけん ) を得( え ) てキャリアを積( つ ) み、ある程度( ていど ) の貯( たくわ ) えと年金( ねんきん ) をもって帰還( きかん ) する場合( ばあい ) では、当人( とうにん ) の生活( せいかつ ) の困難( こんなん ) さ、あるいは幸福( こうふく ) の度合( どあ ) いも、また日本( にほん ) 社会( しゃかい ) の負担( ふたん ) も大( おお ) きく異( こと ) なる。」(「国籍( こくせき ) はく奪( だつ ) 条( じょう ) 項( こう ) 違憲( いけん ) 訴訟( そしょう ) (国籍( こくせき ) 法( ほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) 違憲( いけん ) 訴訟( そしょう ) )弁護団( べんごだん ) 海外( かいがい ) 居住( きょじゅう ) 日本人( にほんじん ) の国籍( こくせき ) に関( かん ) する調査( ちょうさ ) 報告書( ほうこくしょ ) 」武田里子( たけださとこ ) 。証拠( しょうこ ) 番号( ばんごう ) 甲( こう ) 124の1として裁判所( さいばんしょ ) に提出( ていしゅつ ) )
(アンケート結果( けっか ) を分析( ぶんせき ) した論文( ろんぶん ) )「海外( かいがい ) 居住( きょじゅう ) 日本人( にほんじん ) が直面( ちょくめん ) する国籍法( こくせきほう ) 11条( じょう ) 1項( こう ) の壁( かべ ) 」 (武田里子( たけださとこ ) )
東京地裁( とうきょうちさい ) 判決( はんけつ ) は、
2021年( ねん ) 1月( がつ ) 21日( にち ) (木( もく ) )13時( じ ) 15分( ふん ) から!
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