控訴審・第4回口頭弁論、期日報告

2022年9 月6日

控訴人ら訴訟代理人             

弁護士  椎名 基晴

 本日、控訴人から、準備書面(6)を提出しました。

1 準備書面(6)の構成

 準備書面(6)の内容は、大きく3つに分かれています。

 最初に、①地裁判決がフランス国籍の取得を希望する控訴人8の訴えを門前払いにした点が誤りであることを、確認しています。

 次に、前回の期日の後に発行された文献をもとに、②国籍法11条1項が、外国国籍を自らの志望により取得した日本国民だけでなく日本で暮らすその家族にとっても、「家族の交流・結合」を大きく妨げるものであることを、指摘しています。

 最後に、③今年5月の最高裁判決を参照し、国籍法11条1項の違憲性は極めて厳しく審査されるべきことを確認しています。

 順を追って、簡潔に説明します。

2 ①控訴人8を門前払いにした地裁判決は誤りであること

 控訴人らは、前回の期日で、スイス国籍の取得を希望する控訴人7の訴えを門前払いにした東京地裁判決が誤りであることを示しました。その最大の根拠は、在外邦人選挙権制限違憲訴訟で最高裁判所大法廷が示した違憲審査基準でした。

 最高裁大法廷が示したその基準は、フランス国籍の取得を希望する控訴人8についても、そのまま当てはまります。

 そこで今回、国が今年6月に提出したフランス民法の日本語訳に照らして、控訴人8が門前払いされてはならないことを示しました。

3 ②「家族の交流・結合」に対する否定的影響

 控訴人7は、陳述書で、次のように語っていました。

「もし私の姉に病気や事故があって、私が両親の介護を担うことになったとき、私に日本国籍がなく、日本に住所もなかったとしたら、私に日本で十分な介護をすることができるでしょうか。スイスに招けば良いと言われるかも知れませんが、親の希望もあります。親が最も安心できる環境で過ごしてもらいたいですし、それが親孝行だと思います。」

 この陳述は、子の日本国籍が剥奪された結果、その父母らが「最も安心できる環境」で十分な介護を受けられなくなる場合があること、それによって、親孝行をしたいという子のごく自然な感情が行き場をなくしてしまうことを、指摘するものです。

 控訴人7のこの指摘は、空想上の懸念ではありません。

 国際結婚を考える会が今年4月に発行した会報誌に、ある事例が指摘されていました。国籍法11条1項により日本国籍を失ったと扱われている人たちがコロナ・パンデミックの中で、日本在住の親が危篤であるとの知らせを受けて日本に帰国しようとしたところ、日本政府からビザの発給を受けることができず、親の死に目にあえなかった、というのです。同様の相談は私たち弁護団にも届いており、決して特殊な事例ではないと推測されます。

 この方の亡くなった親の視点で考えると、国籍法11条1項が有効なものとして扱われているせいで、人生最後の時間を子と共に過ごすことができなかった。“わが子”に一目会って別れを告げたいという願いが叶わぬまま人生の終わりを迎えた、ということになります。

 「家族との交流・結合」を望むごく自然な思いは、死の間際に、国籍法11条1項によって踏みにじられたのです。

 今は、日本国民の生活と活動が国境を容易に超える時代です。日本国内で暮らし、国籍法11条1項とは関係のない生活を送っているつもりでも、誰もが、ある日突然に、国籍法11条1項による不利益を受けかねないのです。

 たとえば、最高裁判所の判事を務めた法律の専門家でさえ、このおそれから自由ではいられません。

 最高裁元判事の山浦善樹弁護士は、今年4月に「法の支配」に寄稿した巻頭エッセイ、「爺が孫に伝えた年頭のことば」で、幼い孫が国籍法11条1項により日本国籍を剥奪されてしまったことの理不尽さ、そして、それに対する憤りを、次のように綴っています。

「二人の孫が英国籍を取得したために、自動的に(本人の意思に反して)、母の生まれ故郷、爺や婆が住んでいる日本国籍を失ったとしても、二人は、変わらずに日本という国を大切に思っている。それなのに、二人が国籍を奪われて日本人として自由に戻れないことを考えると……これは爺としては納得できない。」

 このエッセイにも記されているとおり、国籍法11条1項は、日本国民が家族を想う心を踏みにじり、「家族との交流・結合」を阻害し得る規定です。このことは、国籍法11条1項の正当性に疑問を投げかける重要な事情であるとして、違憲審査にあたって考慮されてしかるべきです。

4 ③在外法人国民審査権確認訴訟、最高裁違憲判決

 今年5月、最高裁判所大法廷は、海外在住の日本国民の、最高裁判所裁判官に対する国民審査権を制限する法律について、厳しい違憲審査基準を用いて、全員一致の違憲判決を下しました。

 国民審査権の根本にある主権者たる地位、すなわち日本国籍の喪失・剥奪については、より一層厳しい審査基準が用いられるのが当然です。

 その結果として、控訴人らの請求は認容されなくてはなりません。

5 おわりに

 以のとおり、本日提出した控訴人らの準備書面(6)では、①地裁判決がフランス国籍の取得を希望する控訴人8の訴えを門前払いにした点が誤りであること、②国籍法11条1項が、外国国籍を自らの志望により取得した日本国民だけでなく日本で暮らすその家族にとっても、「家族の交流・結合」を大きく妨げるものであること、③今年5月の最高裁判決に照らして、国籍法11条1項の違憲性は極めて厳しく審査されるべきこと、を確認しています。

 ご清聴ありがとうございました。

以上