原告の身内の一人として結審にあたっての想いを述べさせて頂きます。 岩村将幸・清子

 原告の身内の一人として結審にあたっての想いを述べさせて頂きます。

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 2008年提訴するにあたって原告の一人である息子が「最近は悪意の第三者による関係のない両親や家族への誹謗や中傷があるので気にかかる」と私たちを心配してくれました。しかし、私たち関係者はこれまで安全に過ごすことができ、原告8名も野川さんを中心にまとまり一人も欠けることなく審理も結審を迎えることができました。

 個人が国を相手にした裁判でありますので正しい判決が下るか心細く世間のバッシングも怖いものでしたが、裁判を通じ原告たちの想いを全て国側に届け、無事にここまでたどり着いたことは感慨無量です。

 第一回公判から自分の裁判のように傍聴し応援してくれた支援者や団体の励ましに本当に勇気づけられました。弁護団の先生たちは法廷の戦いだけではなく法廷外でも大きな世論を作りに努力してくれ、学者・研究者の先生たちからも法律・学術的観点から理論を構成してくれてました。多くの方々の力で守られてきた裁判だったと実感しております。

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 私と妻は当事者の身内でありながら何も手助けもできませんでしたが、公判の傍聴だけは続けようと約束し昨年までは欠かさず傍聴に参加して参りました。しかし今年3月の野川さんの本人尋問の大事な公判は欠席してしまいました。全国的に新型コロナウイルスの感染拡大の時期だったため感染を恐れ参加しなかったのです。申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 新型ウイルスは本件国籍裁判と同じように無理解知識不足から一般社会で同調圧力が強まり差別やいじめに起きやすいものがあります。高齢者に重篤率が高いと言われるなかで茨城県から東京にノコノコト出かけ感染したり疑いをかけられたら多くの関係者に迷惑をかけてしまう結果になると判断し傍聴を諦めたのでした。ウイルス菌より心無い人の口が怖いと言うのは情けない話です。

 8月20日の今回の最後の公判には開廷時間に間に合うよう辿り着いたのですが、感染対策の傍聴席は既に満席でした。入ることを諦め廊下で見守ろうと思っていたところに、お子様連れのご婦人が「身内の方が傍聴した方が良い」と席を代わってくれ法廷で椎名弁護士の口頭陳述を聴くことが出来ました。

 新型コロナウイルスの脅威の中で沈みがちな心に幸運に出会えた想いでした。席を譲ってくれたご婦人に心より感謝です。

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 70歳を超える今まで国籍問題で困っている人がいること、大きな問題を抱えていることに無理解無知識でありました。この裁判を通じ多くのことを学ぶことが出来たことは私の財産です。

 国籍問題を抱えている人は個人的経済・生活環境や親子親戚友人の関係や権利といった切実な様々な問題に直面させられ、苦しみ、悩みを抱えています。裁判を通じて強く感じたのは「どこにいても日本人であり日本国民として生きる」という精神的よりどころが国籍問題の根底にあるということでした。

 日本は戦後、過去の全体主義的思想や制度を放棄し民主主義国家に生まれ変わりました。

 原告の息子の祖父(私の父)は戦前ノモンハン事変での戦闘など転戦し終戦後ロシアに抑留されました。妻の父は南方戦線で戦いアンダマン諸島で終戦を迎えました。大叔父はテニアン島で戦死しました。我家の歴史の一例として紹介しましたが、原告7名の家族の歴史も被告席に座った国側職員も同じ境遇の歴史を辿ったはずです。明治の時代にあっても私達の先祖は大日本帝国の国策の下で労苦をいとわずわが身を捧げてきた歴史でありました。

 今回の訴訟では、複数国籍は「国益」に反するから原告らの請求は認められないとする主張がなされたと聞きました。

 先に挙げた戦争において偏狭な「国益」の名の下で多くの国民を死に至らしめた戦争の張本人の政治家やロシアに57万人の日本人を売りシベリアに抑留させた軍部の責任者・・・この人たちは戦後に日本国籍を剥奪されたでしょうか。重犯罪人であっても日本国籍でした。

 反面現代日本国民は人を傷つけたり奪うことなく個人の生きるための複数の国籍を持ったということで明治時代の国籍法で日本国籍を奪ってしまうのです。こんな理不尽なことはありません。

 日本人の誰しも先祖から受け継いできた命であり一代限りではありません。長い歴史の一コマの政府や行政官が国民に向かって「お前たちは日本国民ではない」と理不尽に言えるものではありません。天に唾する傲慢といしか言いようがありません。

 今一度政府と行政官は現代社会に即した法的整備を行い先祖に恥じない民主的な国家運営し健全な精神を取り戻して欲しいものです。

 戦後75年の8月にあたり改めて「国」の姿を考えさせられ学んだところです。

最後に

 裁判官は法廷で公正な審理をしてくれたと感じました。そして原告側の証言をよく聴いてくれたと思っております。かといって国を相手にした原告たちを簡単に全面救済する判決を書いてくれるとは思いません。

 裁判官殿には公正で現実の国際社会に即した判決を下して頂くよう切にお願いしたいです。

岩村将幸・清子

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